市場がタイ料理の最前線であったことは疑いないが、さらにもう一つ、王宮の重要性も忘れてはならない。交易性の強いアユタヤーの王宮には、様々な外国からの料理が運ばれたであろうし、そうした目新しい料理に刺激を受けて、それまでになかった工夫が行われ、贅沢な新しい料理が編み出されたのではなかろうか。さらには宮中に働く何百、何千という女性たちによって、宮中の習わしや言葉とともに、一般の社会にも少しずつであれ伝えられ、家庭料理にも影響を与えたはずである。現在、タイの代表的なお菓子としてみなされているトーン・イップ、トーン・ヨート、モー・ケーンなどもこの時代にポルトガルから女官を通じてもたられ、タイ風にアレンジされたものなのである。