熱帯の中南米にはマメ科に属するつる性の野生植物の1種が分布している。そのエンドウに似たサヤの中には4粒ほどの実が入っているが、その中にはカナバニンという毒性の強いアミノ酸が含まれている。このアミノ酸はアルギニンという必須アミノ酸によく似た化学構造をしているので、もし動物がこれを食べると、蛋白質を生合成する時に、カナバニンとアルギニンとを識別できず、蛋白質の構成アミノ酸としてアルギニンが入るべきところへ代わりにカナバニンを取り込んでしまい、本来の蛋白質ができないため、その機能が果たせず、生命に重大な支障をきたすことになる。この毒性アミノ酸は草食動物の食害を避ける効果があると考えられている。
ところが、このカナバニンを含む種子をよく食べる虫としてマメゾウムシと甲虫がいる。それらの昆虫はこの毒性アミノ酸を無毒化できるのである。甲虫での研究では、それを効率よく分解するためのアルギナーゼという酵素を体内に持ち、さらにカナバニンをカナリンと尿素に分解できることが分かった。カナリンには異常な蛋白質を形成する作用はなく、尿素はウレアーゼという酵素によってアンモニアに変わり、このアンモニアは成長に必要な様々なアミノ酸の合成に使われ、余ったものは体外に排出されるという。