東南アジア諸国を中心に熱帯林問題を概観してきて痛感するのは、この問題が林業だけの問題ではなく、農業、畜産、水産といったほかの第一次産業分野と深く関連した、広い意味での地域開発問題だという点である。人間がいて、社会があって、それらをつつむ熱帯の環境がある。問題は、経済や社会制度、あるいは文化、習慣にまで及ぶさまざまな要素の調和をどのようにとって発展させていくかにある。
熱帯林を傷めつけず、そこで生活する人々にも犠牲を強いないで、地域社会の全構成員が豊かに生活できるような条件をいかに備えるかが、熱帯林問題を解決するカギになるのである。熱帯林の持続的管理と利用も、こうした条件のなかでこそ実現できるのである。
高度に発達した科学技術文明に裏打ちされた大量生産、大量消費の資本主義経済社会システムのなかに生活する日本や、欧米諸国の人々の夢とは多少違った、その意味では新しいスタイルの人間の暮らし方を、熱帯に暮らす人々は実現するかもしれない。